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会報 詳細【ニュースレターNo.77】 - 一般社団法人 日本計量生物学会

会報 詳細

ニュースレターに関するお知らせとお願い

これまでのニュースレターですでにお知らせいたしましたように、本学会では、学会誌の質の向上に伴い財政の見直しをする必要が生じて参りました。これについて前理事会ではニュース・レターの電子メール配信により郵送費削減を図ろうという結論に達し、会員の皆様にご協力をお願いすることに致し、新理事会でもその方針が確認されました。

現在、暫定措置として

1)ニュース・レターはホームページに掲載し、電子メールでは会員にニュースレターが掲載されたこととその目次を配信する、
2) 電子メールで配信できない会員にはプリントアウトしたものを郵送する、という方式を1年間(2001年12月まで)取ります。

 このような次第で、郵送できるのは今回が最後となります。可能な限りメールアドレスをお知らせ下さい。また、メールアドレスの変更がございましたら、メールにてお知らせ下さい。なお、理事会議弔録など重要な内容に 関しましては、今後は学会誌の方に掲載します。

 事務局のEメールアドレス:

biometrics@sinfonica.or.jp

皆様のご協力をお願い申し上げます。

日本計量生物学会会長  柳川 堯

伝統と新しさ

30年以上前に21世紀を予測して描いた絵の中のテレビ電話は、描いた当時はありえないと思っていたにもかかわらず、現実のものとなった。小さいサイズのものは、非常に安いと言えないまでも、個人で使用が可能になり、大きいサイズのものは、遠隔会議、遠隔講義に利用できる形として実現した。しかも、画像の質は、日に日に、改良されていく。遠くて会えない方々とも、時間的に余裕がない方々とも、有効なコミュニケーションが可能になった。そこから、新しい文化が生まれる可能性がある。

 時代の急激な変化、古くなってしまうことを恐れ、時代の先端を、先端をと、創造力を働かせる。しかし、その最先端なアウトプットを作り出している現場は、予想以上に伝統的であったりする。良いものを作り出すには積み重ねが重要なのだから当たり前である。

13年前に、Oxford大学の生物数学科の大学院に留学していたとき、まず、この創立1167年の大学の伝統のどっしりとしていることに驚いた。800年以上も続いている伝統は、新しさをどのように付け加え、継続してきたのだろうか? 色々な専攻の学生や教官が混在して暮らしているカレッジ内でdiscussionするのも、偶然滞在しておられた数十年前の卒業生(後に立教大学の学長になられた塚田教授)にその当時ではもう見ることのできない光景のお話をお伺いするのも意義深かった。ところで、医学統計の教育はといえば、生物数学科の大学院では、修士の学生に対して、医学統計、実験計画法、多変量解析等等の講義がかなり速いスピードで進められ、さらに、1週間に1回あるいは2回のチュートリアルが指導教官によって行われ、この密度も非常に濃い。修士の学生は、年間20人程が修了していく状況であった。私は、博士課程のvisiting studentであったが、これらの授業も聴き、さらにArmitage先生とMarriott先生から医学統計関係一般や多変量解析に関する指導を受けた。そのとき、いつも感じていたのが、統計学の基本理念に対する確かな視点とマニュアル主義に堕さない応用統計全般に対する現実主義的な懐の広さとの調和であった。そのとき、チュートリアルや大学院講義で用いられていたテキストがStatistical Methods in Medical Research(P. Armitage & G. Berry著:現在、訳書「医学研究のための統計的方法」あり)であったが、このテキストには、医学研究の実例が約100収められており、そこには50年以上前からの医学統計の現実的な積み重ねがある。そして、それを通じて示されているのは、勿論、特定の研究の成果ではなく、統計的方法論、統計的調査の一般的原理である。データ収集の計画を注意深く行えば、情報の質が向上すること、統計的推論を研究中の問題に対して用いれば、データから非常に客観的な結論を導き出せるということを、新しい時代の要請の中で、さらに追求して行く必要がある。

           
椿 美智子(電気通信大学システム工学科助教授)

会長の一言

来年度は、年会が3学会(日本統計学会、応用統計学会、日本計量生物学会)連合大会として9月7日から11日まで明星大学で開催されます。これに伴って、これまで秋に開催していた計量生物セミナーを中止し、来春に新しい企画の下で計量生物シンポジュームを開催することを理事会で決定致しました。また、総会も計量生物シンポジュームの際に行うことに致しました。

 富士研修所で、合宿形式で和気あいあいと9年間開催し大きな成果を上げてきた計量生物セミナーを中止することをとても残念に思っておられる会員や総会をシンポジュームの際に開催することについて、会員全員の参加という総会の理念が満たされないのではないかと心配される会員も多数おられることと思います。

 変革へと大きな舵が切られた背景には、次のような切迫した事情があります。日本には10指に及ぶ統計関連学会があるにも関わらず、力を合わせることがほとんどありませんでした。このため、社会のあらゆる面で統計科学が必要とされ、今後の発展が強く期待されているにもかかわらず統計科学は強い力となりえませんでした。そればかりか、統計科学は情報学に飲み込まれ消滅する危険さえあります。発言力を強めることがいまとても重要です。たとえば、英米では次代の産業社会の主幹として期待されるバイオインフォーマッティクスを切り開き支え得る者としてBiometriciansが注目され、とても大きな期待が寄せられています。このような英米での常識が、日本の社会では声として語られることさえほとんどないようです。日本の将来が危ぶまれます。

 なお、以上の措置は2002年度に限って行われ、その後のことは様子を見て判断するということになっていますが、私個人としては、継続を目指し連合学会を大成功させたいと考えています。

 さて、本会報をもってニュースレターの郵送は中止となります。今後は、ホームページをご覧下さいますよう。

 

大きな変革がいくつも続き、会員の皆様方には言いたいことが沢山たまっていることと推察します。忌憚のないご意見をどしどし聞かせていただきますよう。力を合わせ、計量生物学の大きな花を咲かせませんか。

柳川 堯

 

日本学術会議報告

はじめに

 学術会議では、総会が年に2回開かれます。その際に、部会、連合部会、特別委員会などの会合も開かれます。今年度のその2回目が10月15日から18日にかけて開かれました。一般的なことは、学術会議のホームページに逐次掲載されていますので、興味のある方はそれを覗いて下さい。ここでは特に統計学関連学会の会員の皆さんに特にお伝えした方がよいと感じたものを、統計学研究連絡委員会の活動も絡めて、報告しておきます。

 

1.知的所有権

  データベースの作成にたいして、どの程度の保護と自由使用を認めるかが、国際的な議論となっています。報告によりますと、1990年頃からの検討をへて、欧州連合(EU)が、データベース作成の投資者保護のために「独自の権利(sui generis right、スーアイ・ジェネリス・ライトと発音するラテン語だそうです。)」を与える制度を導入するという政策判断をしました。独自の権利というのは、著作権よりゆるい条件、つまり、著作権ではそのデータベースに創作性があったときのみ権利が保護されるのにたいし、創作性がなくても著作権並みの保護を与えようということです。たとえば、ごく平凡な索引・検索のデータベースなどを公的資金で作ったときがこれに該当します。これについて学術会議は、「データベースに関して提案されている独自の権利(suigeneris right)についての見解」という声明を採択しました。このような権利は、学術研究におけるデータベースの自由な利用を脅かすものであるから反対である、ということです。投資に対する保護はいままで通り、著作権の範囲で行える、という主張です。データベースについては制作者と利用者の両面を持っている統計家にとって、データベースがどの程度商品化されるべきか、大きな問題だと思います。現実の法制度を間違いなく確かめた上で、ルールをどのように定めるか議論して下さい。

 

2. 日本の計画

  日本が国際的に21世紀の学術をリードするには、日本の計画(英語では「Japan perspective」でありながら、日本語の表題は「日本の計画」)を、世界に発信すべきである、ということで精力的な作文が進められています。

 ヒューマンセキュリティの再構築、循環型社会、価値観の転換とライフスタイル、ジェンダー問題の多角的検討、生命科学の全体像と生命倫理、情報技術と経済・社会、教育体系の再構築、という7課題が焦点になっています。

 1年後には大きな文書が採択されるでしょう。いずれも難しい問題であり、1年のパートタイム的作業で解決の方向が出るとは思えませんが、日本をリードしている方々がどのように考えているか、ということは表面化すると思います。乞うご期待。

 

3.科研費の分科・細目・キーワード

  平成15年度(来年秋の申請)の科研費補助金の分類が大幅に変わりそうです。科研費は、「系、部、分科、細目」という枝葉構造で整理されていますが、系を、「総合・新領域系」「人文社会系」「理工系」「生物系」に分け、今まで「複合領域」の分科だった「統計科学」が、「総合・新領域系」の分科「情報学」の一つの細目になりそうです。(「経済統計学」は人文社会系の第3部、「数学一般」は理工系の第4部です。)なりそうです、という言い方をするのは、イニシヤチブが文部科学省にあって、学術会議は意見を自発的に述べるという立場にしかないためです。

  

これについて統計学研連は、メイルを通して議論をしました。統計学研連は、学術会議会員7人と、統計学関連学会からの委員7人とからなっています。後者の皆さんは、「統計科学」を今までどおり「分科」として残すべきで、情報学の一部に組み込むということに反対、という主張をしていますが、前者の皆さんはこれに肯定的でありません。現段階で、独立した分科を要求するにはそれだけの説得性のある理由が必要ですが、実際の「統計科学」の申請件数、そこで達成された成果が、説得性を持つだけの内容になっていないからです。「統計科学」の学問としての威力がそれほどでないことの反映ではないでしょうか。この点については、枠内に安住する統計科学ではなく、他分野から一目おかれる「統計科学」を目指していただきたいと思います。

4部会員 統計学研究連絡委員会 委員長 吉村 功

 

○2001年日本計量生物学会第3回理事会議事録要旨

日 時:2001年10月16日18:00 - 20:30

場 所:東京大学農学部1号館2階214号室 生産・環境生物学専攻新会議室

出席者:柳川、岩崎、大瀧、岸野、栗原、佐々木、丹後、椿(広)、椿(美)、山岡、吉村

欠席者:安楽、上坂、大橋、折笠、後藤、佐藤、柴田、丸山、三中

 

報告事項 :

1. 日本規格協会より「ISO11843-2: 2000」対応JIS原案作成委員会委員推薦の依頼があり、椿広計理事を推薦した。

2. ISIS2 (The 2nd International Symposium on Business and Industrial Statistics) を協賛した。

 

議 題 :

1. 前回議事録およびE-mail理事会議事録の確認:

 若干の修正の上承認された。

 

2. 各理事からの報告:

・学会誌担当:Vol. 21、 No. 2が発行された。2001年から雑誌の発行を6月、12月に変更する。Vol. 22はNo. 1 & 2の合併号として2001年12月に発行予定。

・ニュースレター担当:次号会報で郵送は終了するが、この旨を次号会報に掲載する。

・会計担当:理事会時点での予算執行状況が報告され、長期会費滞納者に対しては適切な対応を取ることとした。

・組織担当:入会申込書に推薦人の欄を設けるとの提案があり、引き続き検討することになった。

・企画担当:第9回計量生物セミナーは約100名の参加者を得て終了した。

・国際関係担当: 合同年次大会に関する記事をBulletinに送付した。

・2002年合同年次大会:日本計量生物学会、日本統計学会、応用統計学会の3学会連合で2002年9月6 - 12日のいずれかの期日に明星大学にて開催されること、大会企画委員会委員長に吉村功氏が決定したこと、チュートリアルセミナー及び市民講演会が開催される予定であることの報告があった。

・学術会議担当:科学研究費の審査希望部門の再編成に関して、平成15年度申請では「統計科学」は「情報学」という分科の中の細目になりそうである。

・ISCEP: 本学会が主催した「環境と健康:統計科学からの挑戦」国際会議が128名の参加の下で開催された。

 

3. 庶務理事の辞退とそれに伴う対策について:

 丸山庶務担当理事が都合により庶務の役割を外れ、岩崎理事が庶務の役割も兼任することとなった。

 

4. 2002年度計量生物セミナーおよび総会について:

  標記について慎重な議論の末、2002年度に限って以下のようにすることが了承された。

(1) これまでの計量生物セミナーの性格を (2) のように変え、名称も「計量生物セミナー」から「計量生物シンポジウム」と変更する。

(2) シンポジウムテーマを決め一般講演を募集する。その際、一般講演の演題としてはシンポジウムテーマに沿ったものが望ましいが、必ずしも直接関係ないものも受け付ける。

(3) シンポジウム会期中に総会を開催する。

(4) 関西地区で開催。

(5) 期日候補は2002年5月中旬から下旬にかけての金曜日とする。

(6) チュートリアルセミナーを開催する。

(7) 計量生物シンポジウムの翌日に応用統計学会シンポジウムを開催するよう応用統計学会に働きかけるが応用統計学会と連合せず独立に開催する。

 2003年度以降は継続審議とする。また、上記決定に伴い、シンポジウムテーマなどが議論された。

 

5. 2002年度連合大会について:

 2002年度の合同年次大会における特別セッションのテーマとして、計量生物が世の中および統計科学に与えた大きなインパクトを取り上げ、歴史的観点から計量生物の貢献に光を当てることに決定した。

 

6. その他:

・学会誌掲載の広告料をこれまでの半ページ1.5万円から半ページ2万円にする案が了承された。

・2002年度合同年次大会の会期中に理事開会開催用の部屋を確保する要望を出す。

○第9回計量生物セミナー報告

今年で9回目を数える計量生物セミナーが、去る10月12日(金)、13日(土)の2日間に渡り、秋晴れの富士山の麓、静岡県裾野市の帝人富士教育研修所において開催された。今年度のテーマは、「臨床」が『医薬品開発における薬物動態および薬力学の特徴づけと民族間の類似性』、「生物」が『Bioinformatics: ゲノム情報による遺伝子の探索、機能予測、集団構造と進化の推定』であった。参加人数は、「臨床」が会員38名、非会員40名の計78名、「生物」が会員9名、非会員5名、学生6名の計20名で、合わせて98名であった。

 「臨床」、「生物」の各セミナーの内容はオーガナイザーの上坂、岸野の両理事の報告に譲るとして、ここでは全体的な印象を記す.セミナー当日の運営は、栗原理事および事務局の田澤さんのお世話で、参加者各位の協力もあって事が極めてスムーズに運んだ.参加者の幾人かの方々にはその場で議事進行のお手伝いをお願いしたが、皆さん快くお引き受けいただき、それがまた手作りのセミナーというよい雰囲気を醸し出すのに貢献した。

 夜の懇親会でも、ビールなどの差し入れを頂き、終始和やかな雰囲気の中、夜更けまで議論に花が咲いた。また、2日目の午前中のコーヒーブレイクの際、発展途上国援助の寄付金をお願いし、15分の休憩時間という短時間の中ではあったが、参加者の皆さんから20,111円のご寄付を賜った.ここに改めて御礼申し上げます。

  2002年度は、年次大会が日本統計学会、応用統計学会と共同で9月開催のため、計量生物セミナーは本年度と同じ形では開催されない予定であるが、このような泊りがけの企画が今後も機会をみて実施されることを願っている。

 企画担当理事 岩崎 学

[生物の部]

  今回生物の部では「Bioinformatics: ゲノム情報による遺伝子の探索、機能予測、集団構造と進化の推定」をテーマとして取り上げた。情報科学、分子進化学、集団遺伝学、保全生物学、生化学の諸分野でbioinformaticsに携わり、第一線で活躍されている講師の方をお招きした。ゲノムプロジェクトに伴いgenomicsが誕生し、これがbioinformaticsに発展した。ゲノムプロジェクト以降と機関を限定すると10年余りであり、若い分野である。Genomicsはゲノムデータベースの構築とその解析という響きを持つ。これに対して、bioinformaticsはこれを包括しつつも固さから脱皮し、生物科学と情報科学ががっぷり四つに組んで生物と生命体を理解と生命体を総合的に理解する、という響きを持つ。その広がり故に、種々の分野の多くの研究者が共感を持ち、その世界に融和して行った。

 世界中の研究者によって築き上げられたさまざまな情報が規準化されたデータベースにまとめられる。ゲノムデータベースはその中で重要な位置を占めるが、たんぱく立体構造や酵素データベース、文献データベースなど、種々の情報が利用可能となっている。超巨大なデータベースを手軽に操作し、背後にある構造のモデリングを通じて重要な情報を抽出することの有効性が、生物科学における数多くの学術論文で実証されている。

本セミナーでは、講師の方々に最新の話題を語っていただきながら、夜のコースも利用して自由に情報交換し、生命体の多様性と適応のプロセスを有機的に理解するための厚みのある次世代生物情報科学に対するイメージを共有できれば、と願った。参加者は20名余りと小さなミーティングであったが、下に要約するように、それぞれの話題はすべてご自身の先駆的研究に基づくもので、現在進行形のこの学問分野を実感することができた。恐らく参加者全員が何らかの形で少なからず刺激を受けたであろう。貴重な時間を割いてセミナーに参加して下さった講師の方々に心から感謝するとともに、萌芽期を脱し躍動するこの学問分野がその「裾野」をますます広げて懐を深くして行かれることを期待している。

 「バイオインフォマティクスのためのスコア関数学習アルゴリズム」阿久津達也氏(京都大学化学研究所):アラインメントやモチーフ検索など、バイオインフォマティクスにおけるさまざまな配列解析において、スコアの最大化に問題が帰着される。したがって、良いスコア関数を用いることが決定的に重要である。線形計画法で定式化することにより、データベース中の正解・不正解を高分解能で分離する最適スコア関数を求めるアルゴリズムの開発に成功した。

 「タンパク質構造解析:特徴抽出と予測」鬼塚健太郎氏(松下電器先端技術研究所):立体構造既知たんぱく質データベースの充実により、構造未知のアミノ酸配列から立体構造を統計的に予測するアプローチの精度が急速に向上している。ここでは立体構造のモデリングにより得られるポテンシャル、すなわち対数尤度が重要な意味を持つ。配列中のアミノ酸残基対の相対的位置関係を関数展開し、多次元平均力場ポテンシャル、即ち経験尤度を求めることにより、既存の諸手法よりも大幅に予測精度を高めることに成功した。

 「集団の遺伝的構造の推測:経験ベイズと過分散」北田修一氏(東京水産大学):野生集団はさまざまなレベルで棲み分けを行っている。棲み分けは遺伝的な不均質性を生み出す。このため、フィールド調査から保全遺伝学的諸パラメータを偏りなく推定するためには、この不均質性をと調査方式を考慮に入れた分析をすることが重要となる。ここでは経験ベイズの枠組で問題を定式化するとともに、多部位の解析モデルに拡張することにより、任意交配を仮定しない連鎖不平衡の解析手法を提案した。

 「ウイルスの宿主適応:サンプリング、分子進化、集団」徐泰健氏(総合研究大学院大学):RNAウイルスは世代が短くゲノムの突然変異率も高い。複数の患者から継続してサンプルを抽出して配列を比較分析することにより、数年から10年といった手の届く期間内に免疫系への適応過程を推測することが可能となる。諸治療の効果を分子レベルで見ることが可能となってくる。ここで重要となる最適抽出計画について検討するとともに、HIV env遺伝子の解析を通じて潜伏期間における遺伝的多様化の速度と集団の大きさの関係を求めた。

 「家畜における遺伝解析:QTL解析から候補遺伝子の単離へ」林武司氏・美川智氏(農業生物資源研究所):ゲノム内の組換えの事象を利用して、遺伝子のマッピングと遺伝効果を推定するのが連鎖解析である。近交系親を作成できない家畜において分析を可能とする高度な統計モデルを書き下すとともに、ゲノム種を跨いだ保存性を利用して、ヒトやマウスのデータベースとの対照においてマッピングする比較ゲノムによるアプローチを提唱した。これにより信頼区間の幅を遺伝子単離実験に叶うオーダーまで縮めることが可能となった。

 「実験生化学の立場から見たバイオインフォマティックス-ある酸化還元酵素に関する研究の一例-」前田美紀氏(農業生物資源研究所):現在バイオインフォマティクスが実験科学者に貢献する場は、比較的研究の終点近くになってからである。彼らが最も力を注ぎ、資源を投入するのは実験データの生成であり、そこには勘とセンスと試行錯誤がつきまとう。D-エリスルロース還元酵素を例として、実験生化学における標準的な実験例を通じて、実験の失敗と試行錯誤のデータベース化と未利用の実験科学情報の解析手法開発の重要性を指摘した。

 「ゲノム配列からの遺伝子発見」矢田哲士氏(東京大学医科学研究所):ゲノムデータが解読されるとまず必要になるのは、遺伝子領域を特定することである。現在大きく分けて、既知の転写産物との相同性を頼りにする方法、コード領域に特徴的な統計的傾向を利用する方法、種を跨いで保存されている部位を抽出する方法がある。これらを組み合わせた隠れマルコフモデルを構築することにより予測精度の向上が実現した。種々の生物でゲノムが解読されるに伴い、5年以内にゲノム比較によるアプローチの予測が実用の域に達することが予想される。 

岸野洋久 企画担当理事

 

[臨床の部]

 今回のセミナーのテーマは「医薬品開発における薬物動態および薬力学の特徴づけと民族間の類似性」であった。臨床薬物動態学は薬剤が人に投与された後、体内に吸収され、体組織内に分布し、代謝・排泄される過程の機構を研究する学問であり、適切な製剤、投与経路、投与方法そして投与量を決定するための基礎を与える。薬力学は薬物の体内濃度と身体・精神反応の関係を研究する学問である。これらの研究はまた薬剤の有効性ならびに安全性の、民族間での類似性あるいは差異の評価の基本情報として重要な位置を占める。さらに新薬の開発における第Ⅱ、Ⅲ相試験の計画や結果の解釈のためにも薬物動態ならびに薬力学の知識が重要になりつつある。したがって、臨床開発に関わる統計家にとって薬物動態学・薬力学ならびにその試験の計画と解析に関する知識は必須といって良いであろう。しかし、この領域に関係する臨床統計家はまだ限られている様である。薬物動態・薬力学の研究を含む効率的な新薬開発のためには製剤学、薬理学、生理学、医学、数学、統計学などの緊密な協力が重要になってきている。このような状況を鑑みて、今回標記テーマを取り上げ、医学・臨床薬理学、薬物動態学ならびに統計の専門の方々に、薬物動態学薬力学の基礎とその研究の臨床開発における役割、試験の計画・実施に当たっての留意点、薬物動態ならびにその線形性の評価方法、母集団薬物動態の方法と問題点などを、薬物動態の民族間比較の観点も含めてご講演いただいた。また、薬物の有効性に関わる話題として、鬱病の病態ならびに薬物への反応の民族間比較に関してもご講演いただいた。講演の演題と講師および講演の内容は下記の通りである。

 「医薬開発における薬物動態学の役割」菱川保氏(武田薬品工業):最近発行されたガイダンス「医薬品の薬物動態試験について」の内容と個々の事項における背景となった考え方をご紹介いただいた。また医薬開発における個々の試験の役割ならびに国際的な開発戦略を考慮した臨床試験の計画のあり方が述べられた。

 「民族間PK/PD比較試験における実施上の留意点-日米の違いから-」中野真子 氏(日本イーライリリー):臨床薬理試験の実施に当たって留意すべき事項を、研究の目的と試験現場の状況の日米欧の相違点を経験に基づき具体的に述べられた。民族間比較に当たって、試験施設での試験の実施されている状況を現場で確認することの重要性が強調された。

「薬物動態の線形性の統計的評価方法」橋本敏夫氏(三菱ウエルファーマ):薬物動態パラメータの投与量比例性の統計的評価方法として、通常の直線回帰分析、投与量と反応の双方を対数変換したあとの直線回帰分析による冪モデルの解析、投与量で標準化したデータの分散分析法を取り上げ、それらの比較研究の結果が報告された。

 「第Ⅰ相臨床塩件データを用いた薬物動態の民族間類似性の評価」伊藤要二氏(アストラゼネカ):薬物動態試験データの統計的評価に関する問題を種々の観点から考察し報告された。薬物動態パラメータと投与量との関係の民族間類似性の評価を、投与量と民族それぞれの主効果とそれらの交互作用を含む分散分析に基づきパターン分類し、投与量比例性が成立しなくても民族間の比が一定であればブリッジング可能であろうとの考え方を示された。

 「母集団薬物動態解析による民族間類似性の評価方法」笠井英史氏(大日本製薬):母集団薬物動態のモデルの考え方、パラメータの推定法とそれらの性能の評価、実際の動態を記述するモデルと母集団解析に用いるモデルの乖離がパラメータ推定に及ぼす影響の評価などが紹介された。また非線形薬物動態による母集団解析の例が紹介された。

 「薬物動態におけるブリッジングの経験」関口金雄氏(ファイザー製薬):薬物動態の特性をどのような観点から評価するか、それらの民族間の差異はどうであるかを、数薬剤における既存の試験に基づく民族間の比較研究の結果を交えて報告された。また、民族間の比較のための試験方法及び類似性の評価についての考え方を示された。

 「臨床試験データを用いた病態と薬効の民族間での比較 -うつ病と抗うつ剤の例-」大石雅彦氏(ファイザー製薬):鬱病を対象として、日米欧のそれぞれで実施された試験で得られた結果の及びHamiltonの鬱病評価尺度のデータの解析を通して、病態、鬱病評価尺度に見られる症状、薬剤効果などの日米欧の比較の結果が紹介された。

 参加者や約80名であった。そのほとんどは製薬会社の方々であり、聴衆の範囲の広がりには欠けていた。これはこのテーマがまだ特殊な領域であると考えられていることを反映しているのかもしれない。講演では難しい内容も分かりやすく丁寧に解説を加えながらお話していただいた。また聴衆からは活発に質問や意見が述べられ、参加者には大変勉強になり、参加して良かったとの声が多かった。薬物動態・薬力学研究に関心を持つ統計研究者が少ないのは海外でも同様のようである。しかし、例えば母集団薬物動態・薬力学のように最新の統計理論とコンピュータの性能ならびに数値計算技術の発展を必要としている領域もあり、統計研究者の協力が必要とされている。最近発行された「Statistical Methods in Medical Research – An International Review Journal Vol. 8、 No.3、 1999」では「医薬開発における薬物動態および薬力学のモデル構築」を特集しこの領域への統計家の参入を呼びかけている。

 

上坂浩之 企画担当理事

○会費納入について

本年度も残すところ2ヶ月となりました。まだ、本年度の会費を納めていない会員の方が、約25%いらっしゃいます。会費納入を宜しくお願い致します。

 

 銀行振込の場合: 三和銀行  青山支店

           口座番号:1080874

           名前:日本計量生物学会

 付記:会員番号をお名前の前にご記入ください。

 

 郵便局振込みの場合: 口座番号 00150-2-22365

                日本計量生物学会

 

                      日本計量生物学会会計理事 椿 美智子

                                        佐々木秀雄

○生物統計学研究者の海外研修員募集について

近年、適正な臨床試験・臨床研究を遂行する上において、生物統計学や薬剤疫学が果たす役割の重要性に関する認識が高まりつつあることを 背景に、添付の海外研修員制度においても、来年度から生物統計学、薬剤疫学等の研究者の枠を設定し募集することになったという連絡を製薬協・研究開発委員会・臨床開発検討部会長 渡辺寛敏氏からありました。なお、募集要項の資格要件については、従来の臨床薬理学専攻者を意識した表現になっていますが、生物統計学、薬剤疫学等の研究者の場合には柔軟に対応して頂けるとのことです。  

柳川 堯

○環境と健康:統計科学からの挑戦」国際会議の報告

本会主催の標記国際会議が、2001年8月30日~9月1日、福岡ソフトリサーチパークで開催された.招待講演15件、一般講演14件、参加者は、海外からの29名、国内から約100名であった.

 参加者は、環境問題の多様性を反映して数理統計学者、数学者、工学者、公衆衛生学者、毒性学者、医学者、生物学者、社会科学者など、多岐にわたっており、学問の壁を取り払い学際的な立場から、現時点での最高水準の数理環境学・毒性学に関する研究発表と討論が行われ、密度が高い有意義な国際的研究集会であった.会議を主催した日本計量生物学会の貢献と吉村 功大会会長の尽力が、高く評価された。会議の主要な成果はつぎのようであった。なお、会議で発表された論文は、査読をえたあと、国際的学術専門誌ENVIRONMETRICS誌、特集号で公刊されることに決定されている。

  1. 1.   環境汚染物質のがんやその他の疾患に対するリスク評価に、新しい2段階モデルの有効性を示す事例が3件報告された。また、2段階モデルに含まれるパラメータの推定法の技術的な問題点の解決法に関して卓越したアイディアが報告された。2段階モデルは、日本では、まだ適用された事例がなく、有意義であった。日本で開発された多段階モデルとの有用性の比較に関して有意義な討論がおこなわれた。また、毒性動力学モデルという日本人にとって目新しいモデルの紹介がおこなわれ有意義であった。
  2. 2.   内分泌攪乱物質の野生動物に対するリスク評価に関して、影響をとらえる鋭敏な指標は何か、その指標を、いかに精確に観測するか、また、そのようにして観測されたデータを解析するにはどの様な既存技法が有用か、あるいは新しい解析技法が必要であるかについて問題提起があり、有意義な討論がおこなわれた。また、国際連合環境部会の最新の考え方が報告された。さらに、内分泌攪乱物質のリスク評価に関して、数理学的に、いま一番重要な解決すべき問題点が指摘され、有意義な討論がおこなわれた。
  3. 3.   環境汚染物質は複合的にヒトに影響を与えている。デンマーク領・フェロー諸島での胎児の水銀汚染リスク評価に関して、複合汚染評価の解析法が報告された。また、わが国での母乳からの乳児甲状腺ホルモンに対するのダイオキシン、農薬PCBの複合汚染リスク評価に関して、PCBで調整しなければダイオキシンの相対リスクは、約3倍であるのに対して、PCBで調整すれば7倍にはね上がる、というショッキングな報告がおこなわれ、複合汚染リスク評価の重要性をめぐって有意義な討論がおこなわれた。また、small areasからのデータに基づいて超過リスクを鋭敏に検出する新しい時空間モデルが開発され、原子力発電所周辺に居住する母親の早産・流産・死産データに適用された。従来の方法では見えなかったリスクが新しい方法では驚くほど鮮明に浮き上がり、会場にどよめきの声が走った。
  4. 4.   環境データは、いくつもの観測点、相異なる国々で観測され、これを総合的にまとめリスク評価がおこなわれることも多い。このとき階層的ベイズ法とよばれる手法が極めて有用であることが多くの事例を示すことによって明示された。
  5. 5.   環境汚染物質の毒性を同定し、そのリスクを評価するためのバクテリアや、動物やヒト細胞を利用するさまざまな毒性試験が開発され、データが蓄積しつつあるが、これらのデータの多くを既存の方法で解析すると間違った結論が導かれる可能性が強いことが指摘され、その解析法をめぐって、いろいろな考えや手法が報告され、有意義な討論がおこなわれた。

                                           柳川 堯

○関連学会のご案内

 国際計量生物学会IBC2002年がFreiburg(ドイツ)で2002年7月21日から26日において開催されます。既に<www.ibc2002.uni-freiburg.de>でご覧になっていると思いますが、招待セッションがほぼ決まったようです。さらに、一般講演セッションの申し込み(アブストラクト)は2002年1月15日です。

日本からも多数の参加が期待されています。

後藤昌司

○事務局からのお知らせ

 住所変更があった場合には、雑誌Biometrics送り先の変更は各自で行ってください。変更連
絡は以下の所にお願いいたします。
 
  本部住所:International Biometric Society
                1444 I Street NW Suite 700
                Washington,DC 20005-2210,USA
  メールアドレス:ibs@bostromdc.com
  担当者:David Santini

広報からのお知らせ

<広告掲載のお知らせとお願い>

・学会誌への広告掲載のお願い
雑誌「計量生物学」について
  日本計量生物学会(柳川尭、会長)の学会誌です。
  1年に2回発行する学術雑誌です。
  原則として、6月と12月に刊行することになっています。
  読者は生物統計学の専門家(理論・応用)が中心で、会員数約400名です。
  Circulationは約500部です。

・広告掲載のお願い
  本学術雑誌に広告掲載の募集をいたします。
内容としては、統計学関連の書籍・雑誌、統計ソフト、会議案内、人材募集などで
す。掲載料は1回につき、B51ページで3万円、半ページで1.5万円です。
入稿締め切りは5月1日及び11月1日です。できれば電子化ファイルでご入稿願います。
可能な限り継続的に広告掲載をお願い申し上げます。


問い合わせ・掲載依頼先
  折笠 秀樹
  富山医科薬科大学医学部教授
  930-0194富山市杉谷2630番地
  (FAX: 076-434-5184, E-Mail: horigasa@ms.toyama-mpu.ac.jp)

<情報をお寄せ下さい>

 関連学会、会議、セミナーなどございましたら、ニュースレター編集担当委員までお知らせ下さい。また、生物統計学の発展に資するもの、会員に有益であると考えられるものなどについての原稿等を、積極的にご投稿ください。原稿の送付先は以下の通りです。編集作業の都合上、できましたらEメールでお送りいただけますと幸いです。

 

原稿の送付先:
  〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1
  帝京大学医学部衛生学公衆衛生学教室
  山岡和枝
  TEL:03-3964-1211(内線2178)
  FAX:03-3964-1058
  e-mail: kazue@med.teikyo-u.ac.jp

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